KIXから世界のどこまでも。
〜関西国際空港から、いつか行きたい憧れの旅〜
Vol.9
Matera
陸の孤島で出会った、
“イタリアらしさゼロ”の絶景
伊澤 慶一(Keiichi Izawa)
Edited by

伊澤 慶一(Keiichi Izawa)
2005年、海外旅行ガイドブック『地球の歩き方』を発行する出版社ダイヤモンド・ビッグ社に入社。編集部にてフランスやドイツ、香港、ロサンゼルス、ハワイなど世界中のガイドブックを制作。2017年に独立、クリエイティブ・ディレクターとして連載や動画ディレクション、トークイベントなど、幅広く旅行コンテンツを発信中。
Instagram @izawakeiichi
以前の記事で
アマルフィ を紹介したが、
今回案内するのはそこからさら南下した
バジリカータ州にあるマテーラという町。
タイトルで「陸の孤島」と書いたように
アクセスがとにかく不便で、
関西国際空港からは最寄りのバーリまで
欧州の都市を経由して向かい、
さらに「アプロ・ルカーネ」という私鉄に
乗り換える必要がある。
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
しかもこの私鉄、日曜や祝日は
すべて運休してしまうという、
なんとも南イタリアらしい鉄道会社・・・。
運悪く日曜日に当たってしまい、
自分もマテーラまでバスで向かう羽目となった。
観光大国イタリア。
その見どころの多さゆえ
私もよく旅の相談を受けることがあるのだが、
初めての人には王道のヴェネチアやローマを勧め、
2回目の人にはアマルフィやシエナあたりを推す。
3回目でようやくボローニャやシチリア島など。
そんな中、このマテーラについては、
5回目くらいのリピーターに
ようやくおすすめしたくなる、そんな町だ。
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
なぜならマテーラは、
あまりに「イタリアらしくない」ので
どのタイミングで推薦するかが悩ましいのだ。
イタリアの主要観光地はひと通り回り、
さらに目新しい体験や光景を求める方には
とても魅力的な町だと思う。
私自身、マテーラはイタリアの中でも
5本の指に入るほど、感動した町である。
ただ、世界遺産に登録されているものの、
これといった町のシンボルもなく、
その魅力を説明するのもなかなか難しい。
マテーラが気にいるかどうかは、
この「サッシ」という洞窟住居が
密集している風景に心が響くかどうか、
それに尽きると思う。
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景 陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
この景色。
フィレンツエのように
荘厳なドゥオモがあるわけでもなく、
アマルフィのような色鮮やかさもない。
だけど、どこか物悲しい哀愁さが漂い、
胸を打つものを感じないだろうか?
少し、この町の成り立ちについて触れてみたい。
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
石灰質の岩を掘って作られたサッシに
人が住むようになったのは約7000年前。
その後、イスラム勢力がこの地に侵略した際は
キリスト教徒や修道士たちの隠れ家となり
洞窟内に宗教芸術を描き、教会も誕生した。
17世紀にはバジリカータ州の州都になるなど
繁栄を迎えたマテーラだが、
その後州都の変更や景気の悪化、
貧富の差の拡大とともに
これらの洞窟住居に貧困層が住み着き、
極めて劣悪な衛生状態となったという。
見かねた当時のイタリア政府は、
強制的に住民を新市街へと移住させ、
サッシは無人の廃墟となった。
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
つまり、マテーラのどこか物悲しい光景は
負の歴史が生み出した産物だった。
そして1993年に世界文化遺産へと登録、
再び脚光を浴びることとなったマテーラは
退廃的な美しさを醸し出す
唯一無二の観光地となった。
往時の繁栄に思いを馳せつつ、
目の前に広がるサッシの奇観や
洞窟内に眠る宗教芸術を見て回れば、
イタリアという国の歴史の深さを
また思い知らされるのではないだろうか。
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
そんなマテーラだが
旧市街を歩くのには半日もかからない。
普通に考えれば、
バーリからの日帰り旅で十分なのだが、
できればぜひ1泊してみて欲しい。
理由はシンプルだ。
マテーラが一番美しく輝くのが、
夕暮れと朝焼けのタイミングだから。
オレンジの明かりが灯ったサッシは
日中では拝めない幻想的な光景だ。
Malta 地中海のマルタ共和国で、極上リゾート体験
理由はシンプルだ。
マテーラが一番美しく輝くのが、
夕暮れと朝焼けのタイミングだから。
オレンジの明かりが灯ったサッシは
日中では拝めない幻想的な光景だ。
夜のマテーラで、やることは多くない。
ライトアップされた教会を眺め、
賑わう食堂で南イタリア料理に
舌鼓を打ったら、
翌朝に備えてさっさと寝てしまおう。
マテーラ滞在のハイライトは早朝だ。
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陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景 陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
そして明け方、
刻々と色を変えていく空と、
それにあわせて変化していく町並み。
日中はそれなりににぎわっているが
朝は無音の静寂が訪れ、
街全体が荘厳な空気に包まれる。
マテーラに1泊し、
早起きした者だけが見ることのできる景色。
神様からのご褒美、といっては
ちょっと大げさだが、
この朝焼けの町並みに出会えるかどうかで
マテーラの印象はまた大きく変わるだろう。
マテーラに泊まるなら、絶対に旧市街。
値段は張るが、できれば、
もともと住居として使っていた穴を
改装した洞窟ホテルに泊まるのがおすすめだ。
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陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景
暑さの厳しい南イタリアだが、
洞窟の中は空調いらず。
ひんやりとした空気が流れている。
世界遺産の洞窟に泊まれる貴重な体験、
ただ2泊はさすがに長いかもしれない。
ちなみに、私がマテーラを勧めたことで
実際に行ってくれた友人が3人いるのだが、
全員が「一番記憶に残った町」と話してくれた。

もちろんそれは、マテーラが
「あまりにイタリアらしくない」ことの
裏返しでもあるとは思うけれど。
陸の孤島で出会った、“イタリアらしさゼロ”の絶景